最近は、コンピュータを利用して最適化されたアンテナをよく目にするようになりました。
私が雑誌等でコンピュータによる最適化の記事を見たのは、K6STI, BrianのYOを使用した最適化の記事か HAM Journal No.65 に発表されたJM1MCF 加藤氏の「ロング八木アンテナの解析と最適化研究」の記事が 最初だったように思います。
それまでも、コンピュータを利用してアンテナ最適化をしようという試みがあることは知っていましたが、 私のような一般人には、パソコン自体が疎遠な時代でもありましたし、"最適化"というには、ほど遠い 計算をさせているソフトが多かったように思われます。
ハム・ジャーナルの加藤氏の記事は、日本に置いてきてしまっているため、内容を正確には思い出せない のですが、氏のアンテナ設計の思想には勉強させられる部分が多く、強く印象づけられたのを記憶しています。 私は、当時MS-DOSさえ知らなかったのですがプログラム配布を受け、大学の理系の後輩のパソコン上で アンテナ設計をして遊んでいました。
その後も、 YSIM というソフトを購入したり、JA1WXB 松田氏が発表された98用の MMPC (現在、WIN95用のソフトに発展しています)の配布を受けて、 市販アンテナや自作アンテナの評価に使っていましたが、 最近、アンテナ関係ソフトをいじくるのに再び熱中し、K6STIのYO 6.5とAO 6.5を購入、 他にもW7ELの EZNEC やVE2GMIの NEC4/WIN 、 SM5BSZの YOLINやNEC2 MOD 、及び WA7RAIの Quickyagi を利用して、アンテナ設計を行ってみました。
以下、市販のソフトやFreeのソフトを利用したアンテナ設計についての私見を述べてみたいと思います。
(内容に誤りがあるかもしれません。こんな考えをする人もいるのか・・・程度でご覧ください)
いくつかソフトを走らせてみるとすぐにわかるのですが、異なるソフトから"全く同一の結果"`が 得られることは、まずありません。 アンテナ設計をする場合、特に気になるのが、「計算上の特性が目的の周波数できちんと再現 できるのか?」といったことではないでしょうか?
パソコンソフトは"絶対"ではありません。また、仮にソフトがかなり正確であったとしても、 実際にアンテナを作成すれば、人間が作るものである以上、工作の過程で誤差は避けられない でしょう。 私は、殆ど6m(50MHz)専門ですので6mを前提に話をしますと、6mのアンテナの殆どがアルミのブームに マウントされているわけで、細かいことを言えば(UHF以上の多エレメント八木などを作成される方には 殆ど常識でしょうが)、どうエレメントをブームにマウントするのかによって、エレメント長を補正して 工作する必要があるわけです。さらに、6m以上の波長のアンテナでは、アンテナの開口面積も大きく なりますので、タワーやルーフタワーの影響を受ける形でアンテナを上げざるを得ない場合が多いと 思われます。 従って、パソコン上で設計したアンテナが、"計算どおりに再現されることはない"と言ってもよい でしょう。
では、全くあてにならないのか?というとそういうわけではありません。誤差は当然生じますが、 制作されるアンテナがどんな代物なのか、大体"あたり"がつけられるわけです。 "あたりがつけられる"---これだけでも、手作業で試行錯誤していた一昔前と比べると大きな進歩 ではないでしょうか?
パソコンでアンテナ設計をする場合、常に計算結果と現物の間に誤差が生じることを念頭に入れて 置くべきでしょう。これは、上で述べたようなエレメント補正その他あらゆる手段を駆使してアン テナの制作精度をあげたとしても常に誤差があるものだくらいに考えていた方がよいと思います。 同じアンテナを複数のソフトで計算させると同じような性能が再現される周波数が、場合によって 数百KHzもずれている場合があります。それぐらいは、誤差が生じる可能性があると思った方がよい のかもしれません。リアル・グラウンドでのシミュレーションもし、かつ、それが再現されている か実測して確認し、追い込み調整できればよいのでしょうが、それができるだけの環境をお持ちの 方は、個人レベルではまずないのではないでしょうか?ですから、個人レベルでアンテナを設計す る場合、(6mの場合)間違っても100KHz〜150KHzなどという狭い帯域でしか優れた特性を発揮で きないような、たとえがよいかわかりませんが、発振寸前のアンプのようなアンテナをデザイン するべきでないと私は考えています。
たまに誤解をされている方があるようですが、例えば設計段階で50.100〜50.250の間ですぐれた 特性を発揮するようにアンテナをデザインし(ここをはずれると途端に特性が急激に悪化する)、 中心の50.175でマッチングをとる予定だったとします。仮に予定どおり50.175でSWR 1:1で マッチングが取れたとしても、マッチングが取れることとアンテナ固有の特性が再現されることは 全く次元が異なる話ですので、計算どおりのアンテナが再現されたことにはなりません。 スポット周波数でしかアンテナ設計ができないソフトでアンテナを設計した場合、周波数を変化 させてある程度の帯域でまずまずの性能が確保されているか検証した方がよいのではないでしょうか。
利得・F/B・帯域は、どちらかがたてば、どちらかがたたないというトレード・オフの関係に なっていますが、フロント・ゲイン重視で性能を追求してあるメーカー製のアンテナでさえ、 パソコン・ソフトで検証してみると上で述べたような狭帯域のアンテナにはなっていません。
一例として、ゲインを相当重視して設計してあると思われる M2社の2.5WL(11ele)をみても、50.1でマッチングをとった場合、SWR 1.5以下におさまる帯域が AOの計算で600KHz以上、YOの計算では1MHz以上ありますし、GainやF/Bがある程度の数値を保っている 帯域も想像以上に広いのです。
これからお見せするアンテナのデザインは、実際に動作確認をしたものではなく、実験的 にデザインしたものですが、いくつものソフトで計算させてみて、どのソフトでもほぼ同様の 特性をしめしているので、おそらく実戦投入しても計算に近い性能が再現できるのではないか と想像しています。
このアンテナは、あくまで「私」の使用目的にあわせた設計になっています。
「最適化」は、人それぞれで意味が違ってくるでしょう。近隣にローカル局もなく、混信などの
問題もない方でしたら、F/B比などをほとんど無視して利得を追求してもよいのかもしれませんが、
私のような都会のハムが、このようなアンテナ設計をすることは得策ではないと考えています。
(利得だけに注目すれば、1m以上短いアンテナでも同じだけの利得を確保できるはずです)
メインローブ以外の輻射が少ないアンテナは、そうでないアンテナと比べると、同じフロント・ゲイン のアンテナであっても、S/N比(信号対雑音比)がよくなります。メインローブ以外の輻射を低く押さ えることは、混信を少なくし、受信性能を高めることになるのです。従って、特に都会のハムにとって マイナーローブをいかに少なく押さえるかは、非常に重要なポイントになります。ゲインをある程度切り 捨てても、マイナーローブを小さく押さることができれば、パイルアップに埋もれてしまっている 微弱信号を浮き上がらせることが可能な場合もあるのです。
従来の「F/B比をよくしようとする試み」もマイナーローブを小さくする方法の一つではあるのですが、
ビーム方向(0度)とバック(180度)の単純比較だけでは、本当にマイナーローブが小さくなっているのかは
わかりません。本当は、フロント方向の不要なサイドローブも「邪魔者」なのですが、そこまで考慮して
くれているシミュレーション・ソフトが存在しているかは不明です(もしかするとJM1MCF
加藤氏のソフト がこれを含めていたかもしれませんが、記憶が定かでありません)。ひとまず手持ちソフトの中では、
マイナーローブのうちでも大きな比重をもっているバックローブ全体(90度〜180度)を考慮してくれる
ソフトとして、AOやYOがありますので、今回は、それらを用いて最適化を試みてみました。
(AOは水平偏波のアンテナの垂直方向のローブまで考慮してくれます(0度(水平方向)〜90度(真上))。
先に述べたAOやYOは、単純なF/B比ではなく、F/Rという概念を用いています---Front to rear ratio。 この2つのソフトで使用するF/Rには、2種類のものがあり、フロント対「バックローブのPeak値」と フロント対「バックローブの平均値」を考慮することができます。今回は、私にとってメインの周波数になるで あろう50.0〜50.5あたりまでの対Peak値のF/Rを25db程度、対平均値のF/Rをバンド全域(50.0〜51MHz)で30db程度、 確保することを目標値として設定しました。
また、私は現在CWとSSBだけの運用しかしていないのですが、将来RTTYの運用なども行うと仮定して、
50.9MHz以上でのGainとF/Bもある程度確保し、かつ、SWRも低く押さえることも目標にいれています。
(よく状況は知らないのですが、50.1〜50.5ほど局もいないと考えて、下の周波数帯ほどF/Rのピーク値は
求めないことにしました)
さらに、周波数誤差について寛容なアンテナにするようにこころがけました。上述したように、 計算上の特性が予定の周波数から「はずれた周波数」で再現されたとしても、 ある程度の特性を確保できるように、Gain・F/B・SWRの変化が周波数の変化に対して なめらかなものとするように設計しました(仮に500KHzくらいずれた所で特性が再現された としても我慢できる。そこまでずれるとは思いませんが)。
また、ソフトではなく、アンテナを実際に組み立てた際の「人為的な誤差」についても寛容なアンテナに したいと考えて設計をしています。次のパートで示す今回設計したアンテナの寸法は、パソコンで算出さた 数値をそのまま引用していますので、非常に細かな数値になっていますが、mm単位はcmに適当に切り上げ、 あるいは、切り捨てしても(エレメントもブームも) パソコン上の計算では50.110でのgainは、0.03dbしか 減少しません。つまりエレメント長が1cm〜2cm程度ずれたとしても、大きく特性に影響は与えないようです。 ですから、ブーム径による補正などは、無視してしまっても全然問題ないはずです。
また、自立タワーなどをご使用の方は、実際にアンテナを組み立てて、一度低い場所で一応のマッチングを 取った後に、一気にアンテナをあげるという方が多いのではないか?と想像しています。いざ、アンテナを 上げてみるとマッチングの取れる周波数がシフトしてしまうということを経験された方も多いのではないか と思います。このアンテナは、設計段階では、50.110近辺でマッチングを取ることを想定していますが、 仮に49.5MHzや51MHzなど、大きくずれた周波数でマッチングが取れてしまったとしても、50.0〜51MHzまで SWRが1.5を越えないようにしてあります。
最後に、このアンテナは、径14mmのアルミパイプをエレメントに使用する前提で設計してあります。 エレメント径をかえる場合は、ある程度補正をした方がよいかもしれませんが、仮に10mmのアルミパイプを 使用したとしても周波数特性が全体に100KHz〜200KHzほど上の周波数にずれるようですが、もともとのアンテナ がブロードな特性をもっているため、対した影響もないことを確認しています。
少々横道にそれてしまいますが、最近まで、私自身エレメント径やテーパーのエレメントに無頓着だったの
ですが、特にテーパーのエレメントでは、ノン・テーパーのエレメントに換算すると大きくエレメント長が
変化するものがあります。ノン・テーパーのエレメント数値をテーパーのエレメントにそのまま適用すると
「必ず」周波数特性は、上の周波数にシフトします。
テーパー・エレメントの長さ>ノン・テーパーのエレメントの長さ という関係があることをお忘れなく。
テーパーのエレメントをノン・テーパーにする場合にどれほどエレメント長を変化させる必要があるのかの
一例として、M2社の6M7を取り上げてみます。
(同製品は、9.5mmパイプ(中心部片側457.2mm)と6.4mmパイプのテーパーになっています。)
Taper時 | 9.5mmのNone Taper時 | 長さの差 | |
Ref | 3054.4mm | 2995.6mm | 58.8mm |
Ra | 3003.6mm | 2945.2mm | 58.4mm |
D1 | 2851.1mm | 2793.8mm | 57.3mm |
D2 | 2845.1mm | 2787.8mm | 57.3mm |
D3 | 2774.9mm | 2718.2mm | 56.7mm |
D4 | 2720.9mm | 2664.6mm | 56.3mm |
D5 | 2701.9mm | 2645.8mm | 56.1mm |
以上の差を見ていただければ、おわかりのとおり、M2社のアンテナをノンテーパのエレメント
に換算すると長さが全てのエレメントで5.6cm以上短くなってしまうのです。私自身、過去いろいろな
ソフトでテーパーエレメントになっている同社のアンテナをそれを無視して、計算して「どうも
うまく計算できない。M2社のアンテナは特殊なのか?」と思っていたのですが、なんのことは
なく、テーパーエレメントであることを無視した結果であったのです。ノンテーパへの換算値を
いままで計算できなかったソフトに入力してみたところ、まずまず広告値に近い数値を得ることが
できました。
ノンテーパーのアンテナしか計算できないソフトでアンテナのデザインをし、実際には、
テーパー・エレメントにする場合は、計算値よりもエレメント長を長くしなければいけません。
これを無視してしまっているために、元々は非常に良いデザインのアンテナなのに、実物のアンテナの
対周波数特性が設計よりも1MHzも上の周波数にシフトしてしまっているものを見たことがあります。
エレメント径も意外に影響が大きいようで、例えば18mmのパイプを使用してある
アンテナの寸法を12mmのアンテナに作り変えてみると、随分と特性が違ったアンテナができあがって
しまいました。
パイプの径を変更する場合、簡易な方法として、もともとのアンテナのエレメントをそれぞれ
ダイポールとして考えて、インピーダンスの虚数成分が0となる周波数を探し、径を変えたエレメント
がその周波数でインピーダンスの虚数成分が0となるように長さを調整してみてください。
これで、エレメントスペースは変更しないで、「大体」同じような数値が得られると思います。
ここで表示する数値は、パソコンで算出された細かい値ですが、前述したように「適当に丸めた数値」(例えば、 Ref-Ra間の距離を80cmにしたり、Refの半分の長さを1480にする)しても、ほとんど特性の変化はありません。 単位は全てmm。エレメント径は14mm。エレメント長は、半分の長さです。 リフレクターのポジションを0mmとして、エレメントのポジションを示しています。
Element Position | Element Length(Half) | |
Ref | 0 | 1476.9218 |
Ra | 802.6820 | 1435.2050 |
D1 | 1220.2788 | 1375.2327 |
D2 | 2251.8193 | 1343.1875 |
D3 | 3742.7727 | 1321.4492 |
D4 | 5363.3481 | 1303.5376 |
D5 | 6832.6636 | 1272.2395 |
D6 | 8192.5557 | 1300.8397 |
D7 | 9679.0000 | 1262.5654 |
まず、YOによる特性表示です。(F/Rは対リアーローブ平均値)
下の2種のグラフが、50.0〜50.9MHzまでの周波数特性。
上の4つのグラフはF/Rがフロント対バックローブ平均値、下の4つのグラフ(F/R以外のグラフは、上のグラフと同じ)のF/Rはフロント対バックローブPeak値です。
確認のためにAOで、50.110MHzでGainとF/Bを計算すると、Gain=13.02dbi、F/B=31.74dbとなりました。
さらに、MMPC for Windows95で、50.110MHzで、このアンテナの特性を調べたのが、以下のグラフと数値です。
Gainは、dbd表示になっていますので、dbiと比較する場合、2.15dbを加算してください。また、SWRの表示は、
50オームで直接給電した場合の値ですので、マッチングセクションを置く場合は、この値にはなりません。
Freq | 49.0 | 49.1 | 49.2 | 49.3 | 49.4 | 49.5 | 49.6 | 49.7 | 49.8 | 49.9 |
Gain | 12.41 | 12.48 | 12.55 | 12.61 | 12.67 | 12.72 | 12.78 | 12.83 | 12.88 | 12.93 |
F/B | 15.27 | 16.02 | 16.83 | 17.69 | 18.64 | 19.68 | 20.86 | 22.21 | 23.79 | 25.70 |
SWR | 1.56 | 1.5 | 1.45 | 1.39 | 1.34 | 1.29 | 1.24 | 1.19 | 1.14 | 1.09 |
Freq | 50.0 | 50.1 | 50.2 | 50.3 | 50.4 | 50.5 | 50.6 | 50.7 | 50.8 | 50.9 |
Gain | 12.97 | 13.02 | 13.05 | 13.08 | 13.11 | 13.13 | 13.15 | 13.15 | 13.15 | 13.15 |
F/B | 28.11 | 31.35 | 36.08 | 41.58 | 37.49 | 32.68 | 29.56 | 27.39 | 25.82 | 24.67 |
SWR | 1.04 | 1.00 | 1.04 | 1.07 | 1.10 | 1.12 | 1.13 | 1.13 | 1.11 | 1.09 |
Freq | 51.0 | 51.1 | 51.2 | 51.3 | 51.4 | 51.5 | 51.6 | 51.7 | 51.8 | 51.9 |
Gain | 13.13 | 13.10 | 13.07 | 13.02 | 12.97 | 12.90 | 12.81 | 12.71 | 12.59 | 12.46 |
F/B | 23.86 | 23.35 | 23.13 | 23.20 | 23.62 | 24.47 | 25.91 | 28.28 | 32.46 | 42.82 |
SWR | 1.08 | 1.13 | 1.22 | 1.36 | 1.56 | 1.74 | 1.95 | 2.13 | 2.21 | 2.10 |
対周波数特性について、YOで調べたものが、以下にあります。クリックしてご覧ください。
49.5MHzでマッチングが取れてしまった場合の、49.0,
50.110, 51.4MHzでの特性
49.8MHzでマッチングが取れてしまった場合の、49.0,
50.110, 51.4MHzでの特性
50.5MHzでマッチングが取れてしまった場合の、49.0,
50.110, 51.4MHzでの特性
51.0MHzでマッチングが取れてしまった場合の、49.0,
50.110, 51.4MHzでの特性
どれを見ても、使用範囲では実用に耐えうるものになるであろうことが、想像できます。
また、上の図からも、「マッチングでは、アンテナの特性(パターン)は変えられない」ことがおわかりになるでしょう。
近いうちに、ナガラSS96改10ele yagi、約2波長の11eleと、2.5波長の12eleを発表する予定です。
また、スタックについての考察、他のバンドのアンテナとのクリスマスツリーの影響や、リアルグラウンドでの
打ち上げ角の問題などにも触れてみたいと思っています。